理学療法士を目指す前に知るべき現実|15年目の私が伝える進路選択

進路を決める人生の分岐点で悩む学生と、相談にのるカウンセラーのイラスト。

目次

理学療法士の給料・将来・現実。後悔しない進路選択のために知るべきこと

第1章:はじめに(憧れだけで進路を決めてもいいのか?)

「将来は理学療法士になって、スポーツ選手のサポートをしたい」「リハビリで誰かを笑顔にしたい」

そんなキラキラした夢を持って、このページに辿り着いたあなた。その熱い気持ちは、私たちが15年前に持っていたものと同じです。

しかし、もしあなたが「医療職なら一生安泰だし、給料もそこそこ良いだろう」という理由でこの道を選ぼうとしているなら、私は全力であなたを止めたい。

今、理学療法士(PT)という職業は、かつてないほどの転換期にあります。

私が資格を取った頃は、まだ「資格さえあれば食いっぱぐれない」という空気が残っていました。しかし現在はどうでしょうか。専門学校は乱立し、毎年1万人を超える新しい理学療法士が誕生しています。

一方で、私たちの給料や待遇は、その責任の重さに反して横ばい、あるいは下落傾向にあります。

この記事では、現役15年目の理学療法士として、きれいごとを一切抜きにした「現場のリアル」を書き記します。長い文章になりますが、あなたの人生の4年間、そしてその後の40年間を左右する内容です。

どうか、高い授業料を払い込む前に、最後までお付き合いください。

進路を決める人生の分岐点で悩む学生と、相談にのるカウンセラーのイラスト。

第2章:市場の現実(「数」と「需要」から見る、理学療法士の飽和)

まず、皆さんに直視してほしい数字があります。

日本理学療法士協会の統計によると、1990年代初頭にはわずか1万人程度だった理学療法士の数は、今や13万人を超え、20万人へと迫る勢いです。

かつて、リハビリ専門職は「希少価値」がありました。病院はどこもPTを欲しがり、新卒でも引く手あまた。就職先に困ることなど考えられなかった時代です。しかし、今は違います。

「選ばれる」時代から「選ぶ」時代への逆転

都市部の大きな病院では、すでに採用枠に対して応募が殺到し、「不採用」が出るのが当たり前になっています。かつては病院側が頭を下げて確保していた人材が、今や「供給過多」になりつつあるのです。

Googleで「理学療法士 飽和」と検索してみてください。厚生労働省の推計でも、2040年頃には理学療法士・作業療法士の供給数は需要の約1.5倍になると予測されています。つまり、単純計算で「3人に1人は仕事にあぶれる」可能性があるということです。

供給が増えると何が起きるか?

経済の原則として、供給が増えれば価値は下がります。

「誰でもできる仕事」には高い給料は払われません。理学療法士の数が溢れれば、経営者はより安い賃金で働いてくれる若手を雇おうとします。

「資格があるから大丈夫」という魔法の言葉は、もう通用しなくなっているのです。

第3章:学費と年収のミスマッチ(4年間の投資を回収できるのか?)

ここで、少しシビアなお金の話をしましょう。

理学療法士になるためには、4年制大学や3年制の専門学校に通う必要があります。その学費は、私立であれば4年間で500万円〜700万円、公立でも数百万円は下りません。

一方、理学療法士の平均年収をご存知でしょうか。

厚生労働省の調査では、約400万円〜430万円前後で推移しています。これは日本の全職種の平均とほぼ同等、あるいはそれ以下です。

投資対効果(ROI)の低さ

仮に700万円の学費をかけ、奨学金を借りて理学療法士になったとします。

手取り20万円前後の給料から、毎月の返済を続け、生活をやりくりする。看護師のような夜勤手当(1回1万円〜1.5万円程度)も、基本的にはありません。

同じくらい本気で勉強し、同じくらい高い学費を払うのであれば、他の学部を選んだ方が生涯賃金が1.5倍〜2倍になるケースはザラにあります。

「人を助けたい」という尊い志を、奨学金の返済という重い現実が削り取っていく。そんな若手PTを、私は現場で何人も見てきました。


第4章:他資格との徹底比較(看護師・薬剤師と比較して見える「不都合な真実」)

理学療法士、看護師、薬剤師の医療の国家資格を持つ職種を並べたイラスト。

進路に迷っているなら、この事実を直視してください。「同じ医療職だから、どれを選んでも似たようなものだろう」という考えは、将来のあなたを苦しめる可能性があります。

同じ国家試験に向けて数千時間の勉強をし、同等の学費を払ったとしても、選ぶ「免許」によって人生の選択肢はこれほどまでに変わります。

医療系国家資格の比較表

比較項目理学療法士 (PT)看護師薬剤師
平均年収の目安約430万円約500万円約580万円
夜勤手当の有無基本なしあり(1回約1〜1.5万円)なし(残業代等は高単価)
求人倍率下落傾向圧倒的な不足(超高倍率)安定した需要
働き方の多様性病院・施設が8〜9割病院・企業・産業医・美容・訪問病院・薬局・製薬会社・研究
ブランク後の復職スキル維持が難しいどこでも即採用知識があれば高時給で復職可
一生モノの価値体力が尽きると困難役職や専門性で一生現役知識ベースのため一生現役

看護師や薬剤師が「安定」している理由

看護師には「夜勤手当」という強力な加算があります。月に4〜5回夜勤に入るだけで、年収は100万円単位で変わります。また、看護師は病院だけでなく「企業内診療所」や「産業看護師」「美容クリニック」など、活躍の場が多岐にわたります。

理学療法士はどうでしょうか。どれだけ勉強しても、私たちの診療報酬(国から支払われるお金)は決まっています。1人の患者さんに20分介入して得られる金額には上限があり、それは新人もベテランもほぼ同じです。つまり、「経験を積んでも、病院に利益をもたらす金額が変わらない=給料が上がりにくい」という構造的な問題を抱えているのです。

第5章:「開業権」の壁(病院を辞めたとき、あなたに何が残るか)

ここが、理学療法士を目指す上で最も理解しておくべき「法律の壁」です。

柔道整復師や鍼灸師には認められている「開業権」が、理学療法士にはありません。私たちは法律上、「医師の指示の下に」理学療法を行うことが義務付けられています。

「理学療法士」という看板で店は出せない

もしあなたが、将来的に独立して自分の店を持ちたいと考えたとします。しかし、現在の法律では「理学療法診療所」として独立開業することはできません。できるのは、あくまで「整体院」や「パーソナルジム」といった、無資格者でもできる形態での開業です。

この時、あなたが4年間かけて取った「理学療法士」という国家資格は、法的には何の武器にもなりません。病院という組織を離れた瞬間、あなたは「理学療法」を提供できなくなるのです。

他職種との決定的な差

看護師は「訪問看護ステーション」の管理者になれます。薬剤師は自分の「薬局」を持てます。保健師は自治体や企業で独立に近い動きができます。

理学療法士は、どこまで行っても「組織に属し、医師の指示を仰ぐ」ことがベースの資格です。この「個人の裁量権の少なさ」が、40代、50代になった時のキャリアの閉塞感に直結します。

第6章:キャリアの限界(40代・50代になったとき、現場で戦い続けられるか)

「今は若くて体力があるから大丈夫」と思うかもしれません。しかし、20年後の自分を想像してみてください。

体力勝負の現場

理学療法は、患者さんの体を支え、移乗を助け、一緒に歩行練習を行う「肉体労働」の側面が非常に強い仕事です。

20代のうちはこなせても、50代になった時に、自分より体格の大きな患者さんの介助を1日18単位(約6時間)毎日続けられるでしょうか。

ベテランPTの需要が少ない理由

残念ながら、リハビリの現場では「知識豊富な50代のベテラン」よりも、「安く使えて、体力があって、最新の理論を学んできたばかりの20代」が重宝される傾向にあります。

先ほど述べた通り、診療報酬はベテランも新人も同じです。経営者からすれば、高い給料を払わなければならないベテランよりも、若手を数多く回した方が利益が出るのです。看護師のように「ベテランだからこそ任せられる管理業務」の枠も、理学療法士には極めて少なく、多くの人が現場で疲弊していくのが現実です。


第7章:再就職の闇(「理学療法しかできない人」の市場価値)

もし、あなたが40代で体を壊し、あるいは職場の人間関係に疲れ、理学療法士を辞めざるを得なくなったとします。その時、転職市場であなたはどう評価されるでしょうか。

残念ながら、「病院でリハビリだけをしてきた人」の市場価値は、一般企業から見れば極めて低く見積もられるのが現実です。

PCスキル、営業経験、マーケティング、チームマネジメント……。病院という閉ざされた世界で患者さんの動作改善だけに集中してきた代償として、ビジネスパーソンとしての汎用的なスキルが抜け落ちてしまうリスクがあるのです。

「理学療法しか経験していない40代」の再就職先は、同じ業界のより条件の悪い施設か、あるいは未経験の職種で20代と同じ給料からスタートするか。そんなとてつもない不安が襲いかかる日が来るかもしれません。

第8章:それでも理学療法士が「最高」だと言える唯一の理由

理学療法士が患者さんと目標、ゴールに向けて評価、話しをしているイラスト。

ここまで厳しい現実ばかりを並べてきました。それでも私は、理学療法士という仕事を続けています。なぜなら、この仕事には他の何物にも代えがたい「創造的な喜び」があるからです。

理学療法士の仕事は、単に決められたマニュアルをこなすことではありません。

目の前の患者さんの体のクセを見抜き、生活環境を想像し、「あなただけのオリジナル・プログラム」を組み立てる。その工夫がピタリとハマり、昨日まで一歩も出せなかった患者さんが笑顔で歩き出した時の達成感は、何物にも代えられません。

自分の知識と技術で、誰かの「不可能」を「可能」に変える。

この瞬間の震えるような感動を一度味わってしまうと、やはりこの仕事を選んでよかったと心から思えるのです。それは、数字や効率だけで測れる価値ではありません。

第9章:生き残るための「ハイブリッドな働き方」

もしあなたが、この厳しい時代に理学療法士として生き抜きたいなら、「資格+α」の努力が不可欠です。

私自身、理学療法士として患者さんと真剣に向き合う傍ら、管理者の許可を得て、空いた時間に事務作業や営業業務を手伝わせてもらっています。

「リハビリさえしていればいい」という殻に閉じこもらず、病院経営の仕組みを知り、外部との交渉を学び、自ら仕事を作る努力を続けています。

理学療法士という「専門性」に、事務、営業、あるいはITやマネジメントといった「ビジネススキル」を掛け合わせる。そうすることで、あなたの価値は「代わりの効く作業員」から「組織に不可欠な人材」へと変わります。

これからの理学療法士は、病院のベッドサイドだけで完結してはいけません。自ら経験を増やし、仕事を探し、自分の価値を自分で定義していく。その覚悟がある人にとって、理学療法士という免許は、最強のベースキャンプになるはずです。


第10章:まとめ(正解はない。だからこそ「納得」して進んでほしい)

理学療法士という職業は、もはや「資格さえ取れば一生安泰」という魔法のチケットではありません。将来の飽和、給与の伸び悩み、そして体力的な限界……これらは目を背けてはいけない、すぐそこにある現実です。

もしあなたが今、「なんとなく医療職だから」「漠然と理学療法士になってみたい」という程度の気持ちでこの道を選ぼうとしているのなら、私はこう伝えたい。

「一度立ち止まって、他の職種も徹底的に調べて、将来を天秤にかけてみてください」

同じ時間と熱量をかけて勉強するなら、より需要の高い看護師や、専門性が給与に反映されやすい薬剤師、あるいは開業権を持つ柔道整復師など、あなたを活かせるフィールドは他にもあるかもしれません。それらの職種を知った上で比較し、自分の人生に責任を持って選択すること。それが、今のあなたに最も必要な作業です。

それでも。

他のあらゆる選択肢を調べ、厳しい現実も理解した上で、「それでも人の動きにこだわり、自分の工夫で誰かの人生を変えたい」と願うあなたなら、迷わずこの道へ進んでください。

理学療法士の仕事には、数字やデータでは測れない、人間の可能性に触れる「本物の喜び」があります。その喜びを力に変え、自ら仕事を作り出していける人にとって、この職業は一生をかける価値のある、最高にクリエイティブな仕事になります。

高い授業料を払い、数千時間の勉強を始める前に、今一度、自分に問いかけてみてください。

「私は、この仕事で生きていく覚悟があるか?」と。

悩んで、迷って、納得して選んだその道の先で、いつかあなたと一緒に働ける日を楽しみにしています。


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